2、小は大に勝ち得るか?

「空手を身に付けると、体格や力の劣る人が勝る相手に勝ち得る」という、良く耳にする格言です。
武術を修行する者にとって命題だといえますが、果たして実状はどうでしょうか。

先ず、近代格闘技(ルールが制定されているといった意味)の場合はどうでしょうか。
ボクシングや柔道など、多くの格闘技が体重別制を取り入れています。
近代の直接打撃制の空手でも一部取り入れています。
やはり体重差を意識しているのは間違いありません。

柔道等の試合ではその差は決定的に見えます。
同じ技術レベルの者同士で投げ技の攻防を考えた場合は、軽い者と重い者とではその差は致命的です。
当会の練習でも柔法戦の時は体重の勝るものが圧倒的に有利です。

空手やキックボクシングなどの場合は、基本的に投げ技等は無く、間合いを計っての打撃(剛法)戦が主です。
先に仕留めてしまえば体重差は関係無いとも思われる場合もありますが、やはり体格の勝る相手の打撃はより強烈です。
打ち合いになったとして体重体格により、耐久力、攻撃力の両面において差がでるでしょう。
攻撃を捌き切る技術があれば、喰らわずに喰らわす事が可能ですが、相手も当然訓練して来ている訳です。
目潰し、金的攻撃が許されたとしても同技術レベル同士では体格差は有効たどと言わざるをえません。

近代格闘技の場合においては、小が大に勝つのは困難であるといえます。
もっとも、技の鍛錬を通じて心身を修練するのが目的の武道スポーツにおいては問題では無いのです。
ライト級のボクサーがヘヴィー級に負けたとしても、リングの上では何ら恥にはならないのは当たり前です。

しかし!
実戦に於いて護身の必要から鑑みた場合、そんな事はいってはいられません。
子供対大人、女対男、老者対若者、如何なる悪条件下であろうとも、生命、財産、尊厳を死守する必要があるのです。
人は「鍛える」のが好きな一面を持ちます。
しかし限界まで鍛えた技であっても、天与の体躯に頼ったものであってはいけません。
常に自分が不利な体格、状況であるとの想定の元に戦術を設計しなければなりません。
無論、精一杯の鍛えを併せて行っておく事は当たり前のことですが。
これが、心技体揃った武道の内の技に当たる武術の根幹であると確信します。

小が大に勝つ為には、生半では有りません。
これを可能とするか否かが、近代武術と伝統武術の違いであると私は考えます。
体格差を覆す為の条件として、その差を無効化、または逆利用する方法が考えられます。
果たして可能でしょうか?
(余談ですが、会津藩お内式といわれた大東流柔術は、小柄でないと極められないといわれています)

剛法の場合は打撃威力に体重が大きく関与します。体格が大きければ攻撃距離も伸びて遠くまで容易に届くでしょう。
そこで小人の必勝条件としては、一撃必殺の威力ある攻撃を、電光石火の速度をもって遥か彼方の敵に一瞬で見舞う。
これが可能であれば体格差を無効化できるわけです。
具体的な技としては、順突きよりも逆突きよりも、更に強力な追い突きを、順突き以上の速さをもって行う。
これが最良の手となります。

追い突きは、寄り足(前足を前に出して踏み込む)や継ぎ足(後足を前足に引き付けてから前足で踏み込む)ではなく、歩み足(後足を前に出し踏み込む)で行います。
その為、順突きや逆突きは、自分の体重を発射台(重し)代わりにしてロケットを打ち出す具合で、拳攻撃を仕掛けます。
それらに対して追い突きは、拳の質量+発射台(体重)の質量が一緒になって飛んでいく事になり、遥かに強力です。
歩み足のため射程距離では最も遠くまで届き、最大威力の突きとなります。
しかし反面モーションが大きいため、到達に時間がかかる、予備動作が大きい、などの嫌いがあり、敬遠されがちです。
それらの問題点を解決するため首里手では、悠久の時をかけ研鑽した古伝の技法が多々あります。
「ガマク」と「倒地法」で攻撃時の居着き(攻撃直前の体の瞬間停止)を無くし、「縮地法」で敵までの遠距離を瞬時に詰め寄り、「一寸力(チンクチ)」で無用の力みを解消します。
いずれの技術も首里手では、古来より秘伝とされ門外不出でありました。ただし那覇手とは違い、分派しつつ広く伝えられてきた経緯がありますので、正しく継承している指導者も多くあり、その元で稽古することが大切となります。
「その時が来れば師が現る」といいます。

次に柔法の場合を考察してみましょう。
基本的に接近戦になるわけですので、剛法の威力は首里手に比べてほとんど無効化されます。急所攻撃も有り得ますが柔法で取り押さえてからの方がより効果的です。
そのため柔法は、接近戦において剛法と併用するのが理想的となります。
柔法で敵を崩し制止つつ剛法で急所攻撃を行い止めを刺す、これがコンセプトになります。
柔法の大まかな分類としては、投げ技、間接技、絞め技などがあります。
いずれも腕力の強いほうが有利といえましょう。

しかし、これらの技は力をかける正しい方向があって初めて有効となります。
そのため力の方向をずらされたり崩されたりすると、腕力の強い者であっても無効化されてしまうのです。
攻撃には、力をかける方向、押さえる急所の位置の把握(圧法時)、技の正しいカタチが必要でしょう。
また攻撃と同様に、防御技、脱出技が非常に大切です。
こう攻撃されたらこうする、あの場合にはああするなど、予めあらゆる攻撃に対して対処できるようにしておく必要があります。

柔法は剛法と比べて技の種類が大変に豊富です。
全てに対処するには非常に困難なものとなりますが、その為に古伝の開手型があります。
最破(サイファー)から壱百零八手(スーパーリンペイ)まで八つの型があり、全ての攻撃技、対処技が納められています。
先ずは最破を完璧に使いこなせるようにし、後に計三つの型の技術をマスターするのを目標にすると良いでしょう。
この段階で一般的に必要な対応方法が一通りはマスターできるでしょう。
最終的には全ての型の技法を習得するのが目標です。

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